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あと味

たくさん情報を食べて、たくさん発信すると、あとになって味わい深い。

良いWebディレクターを目指すなら「Webプロジェクトマネジメント標準」は今すぐ読むべき

Webプロジェクトマネジメント標準を読みました。すごく良い本だと思います。

ここ最近、お客様のところに訪問してご不満、ご要望をうかがったり、福井のWeb制作者のコミュニティで今のWeb制作の現状、悩み、これからWeb制作はどうあるべきなのかということを夜遅くまでグループチャットで討論し、制作者のみなさんそれぞれが苦労をしていることがわかりました。

Webサイト制作というプロジェクトを円滑に進め、そのWebサイトを成功させることができるのかということについては、「ディレクション」という役割が重要な鍵を握っていると思いますし、制作者もそれを認識しています。しかしながら、クライアントにはディレクションの重要性を理解してもらえず、「なんでそんなことに、こんなにお金がかかるの?」という意識を持たれ、思うように見積りに反映させることができない。その結果、お金をかけて作ったWebサイトの成果があまり出ず、ご不満を持たれてしまうという問題を抱えています。

本書は、そういった悩みを持つ制作者にヒントを提示してくれていると思います。

書籍の紹介と書籍の持つ背景

本書は、株式会社ロフトワークの林千晶さんと、富士通株式会社の高橋宏祐さんの共著で、PMBOK*1に基づくプロジェクトマネジメントのノウハウを、Webディレクションに適用する方法論としてわかりやすく完結にまとめたものです。(以下、商号は略します)

目次

Chapter1 プロジェクトマネジメントがもたらすもの
Chapter2 PMBOKに基づくセオリー
Chapter3 プロジェクト・マネージャーの真のチャレンジ
Chapter4 ウェブ・プロジェクトで活用できるテンプレート集
Appendix [座談会]プロジェクト化が進むウェブの現場

本書のおすすめの理由のひとつでもありますが、PMBOKという国際的に確立された手法を元に解説されているため、ロフトワーク流の仕事術だったり、富士通流の仕事術になっていない点がとても良いと思っています。

「詳細が書いてないから結局業務に使えないじゃん」とならず、詳しく調べたければ、PMBOKの原典を読めばいいので、説明責任*2を果たしていると言えます。

なぜ、ロフトワークと富士通がこのPMBOKを紹介するのか?という背景も知っておくと理解が進みます。

ロフトワークについてはコーポレートサイトの「ロフトワークの強さ」というページでどのような会社か把握できます。

ロフトワークは、あえて社内にクリエイターをおきません。

その代わりにロフトワークを支えるのは、無限の可能性を秘めたクリエイターポータルサイト“loftwork.com”です。
“loftwork.com”には、イラストレーター、デザイナー、ライターなど、約10,000人のクリエイターが登録しています。
そこでは、クリエイターが自身の作品を発表したり、ブログを書いたりと、まるで巨大な広場のように、いたるところでさまざまな活動が展開されています。

Web制作の案件が決まると、このクリエイター達をチームとして編成し、プロジェクトを完遂するとのことです。バックグラウンドの異なるクリエイターを束ね、動かしていくためにはプロジェクトマネジメントのスキル・ノウハウが必要不可欠だったのだと思います。

同様に、富士通は、名前を知らない人はいないほどのグローバル企業で、グループ会社を合わせて16万人超の従業員を抱えた、多様性を持った企業です。その中で、国際化したコーポレートサイトを制作・運用し、富士通ウェブ・アクセシビリティ指針のような、評価の高いガイドラインの整備を進めるためには、プロジェクトマネジメントのスキル・ノウハウが必要不可欠だったのでしょう。

本書はそのような背景を持つロフトワーク、富士通だからこそ書けるプロジェクトマネジメントの本です。

Web制作業界は多くの職種の人が携わる、多様性を持った業界です。加えて、個人事業主や小規模の制作会社も多く、人の移り変わりも激しいため、仕事の進め方は会社それぞれです。そのため、プロジェクトマネジメントのノウハウは伝承しにくく、共有しにくい業界構造になっています。

ロフトワークは、PMBOKの導入を考えてから社内に根づかせるために数年を要したそうです。しかし、導入をすることで、クライアントとの信頼関係が深まり、高度な案件や大規模なプロジェクトをてがけることができるようになったとのこと。

Web制作に携わる多くの人が、本書を通してPMBOKという確立されたプロジェクトマネジメントの手法に触れ、プロジェクトをうまく運び成功させることができるようになれば、業界の信頼性も今以上に高まり、ディレクションについてのクライアントの理解も進むのではないかと期待しています。

Web標準に準拠したWebサイトを制作するように、プロジェクトマネジメントの標準に準拠したり、意識したりすることは、将来的に大きな価値を持つことになるはずです。

経験が浅い私が言うのもおこがましいのですが、Webディレクターにはぜひ読んでいただきたいと思いました。

本書の読み進め方

本書は、1回目は全体をざっと読んで、2回目はTwitterで感想や引用をポストしながら読んで、3回目はエントリーを書くために読みました。細かいところまでは把握しきっていませんが、全体像はつかめています。

読みながら考えた、あと味が推奨する「本書の読み進め方」をご紹介します。

おすすめの読み進め方は以下のとおりです。

  1. Chapter1.2 「3つのキーワードで「プロジェクト」を読む」は必読
  2. チャプターが変わったタイミングで、P33のマトリクス表を参照し、現在位置を把握する
  3. インプット、ツールと技法、アウトプットのどれを説明しているかを意識する
  4. Chapter3の「プロジェクト・マネジャーの真のチャレンジ」で自己啓発する

本書は、文章量が多く、見慣れない単語も多いので、読み終わった後、「小難しいことが書いてあってよくわかんなかった」という感想を持ってしまう方もいらっしゃると思います。事実、私がそうなりそうでした。

そうなっては意味がありませんので、この「本書の読み進め方」を参考にして、より理解を深めていただきたいと思っています。

Chapter1.2 「3つのキーワードで「プロジェクト」を読む」は必読

PMBOKは計44のプロセス(プロジェクトの中で行うべき作業)で構成された、複雑なフレームワークです。

このチャプターを読むとPMBOKの概要がつかめます。44のプロセスは9つの知識エリアに分類できるということ、PMBOKはアウトプットが重要であるということ、プロジェクトにおける作業範囲の明確化がプロジェクトを完遂するために必須だということなどです。

特に、ここで紹介されている以下の記述は、本書を読み進める上でも重要になってきます。

PMBOKでは、すべての知識エリアにおける重要な基本動作として、「インプット→ツールと技法→アウトプット」という流れで解説されています。

アウトプットを残すことの最も重要な意義は、それが次に続く作業のインプットとなり、さらには新しいプロジェクトのインプットにもなることです。

チャプターが変わったタイミングで、P33のマトリクス表を参照し、現在位置を把握する

前述したとおり、PMBOKは計44のプロセスで構成されていますが、P33には、その44のプロセスが一つのマトリクス表にまとめられています。

どの段階で、どのプロセスが使われ、そのプロセスは、どの知識エリア(前述した9つの知識エリアのこと)に属しているのかをマトリクス表を見ることで把握できます。

本書を読みながら、チャプターが変わるタイミングで、P33のマトリクス表を参照し、「今から読み進めるのは、この位置のプロセスだ」ということを意識しながら読むことで、PMBOKのアウトラインがつかめ、各プロセスの関連性が見えてきます。

また、この読み方で読み進めると、自分たちの制作プロセスとリアルタイムで照らし合わせ、レビューすることができます。「この作業は、ここまでにしていないといけなかったのか」とか、「これが抜けているから、ああいうトラブルが起こったのか」などの具体的なシーンを思い浮かべると良いと思います。

「アウトプットは次のインプットになる」という考え方に立った場合、各プロセスの関連性を把握することはPMBOK全体の理解につながると思います。

インプット、ツールと技法、アウトプットのどれを説明しているかを意識する

前述したとおり、PMBOKは「インプット→ツールと技法→アウトプット」という流れで解説されています。本書の各チャプターもそれに近い構成になっています。

「ここに書いてあるのは、PMBOKのアウトプット(or ツールと技法 or インプット)についての記述だ」ということを意識しながら区別して読むことで、実務で具体的に発生する作業や手段を把握しやすくなります。

さらに、平面的な読み方ではなくなるため、メリハリがつき、淡々と読み進めることができるようになります。読後感も良くなるはずです。

Chapter3の「プロジェクト・マネジャーの真のチャレンジ」で自己啓発する

このチャプターはビジネス書を読んでいるような感覚になり、自己啓発ができます。

Webディレクターに限らずいろんな職種の人にも必要とされる普遍的なことが紹介されていて、Webディレクターとは多くのヒューマンスキルが必要であることを意識できます。

まとめ

長文になってしまいましたが、多くの方に読んでいただきたいし、本書を手にした際に、このエントリーを参照していただけたら幸いです。

さらに言えば、このPMBOKの一部は自分の夢(プロジェクト)を実現するということにも適用できる可能性を秘めていると感じます。

本書はPMBOKの入門という位置付けだと思うので、他の本も読んで理解を深めたいと思います。

Webサイトは作ることが目的ではなく、目的を達成するために作るものです。本書からプロジェクトマネジメントを学んで、制作者、クライアントの両者が満足できるWebサイトが、今以上に増えることを期待しています。

引用文献

Webプロジェクトマネジメント標準 PMBOK(R)でワンランク上のWebディレクションを目指す

Webプロジェクトマネジメント標準 PMBOK(R)でワンランク上のWebディレクションを目指す

*1:[http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%AF%E3%83%88%E3%83%9E%E3%83%8D%E3%82%B8%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%88:title=プロジェクトマネジメント - Wikipedia]

*2:標準化された方法論を使うことは、オリジナリティがないとも言えるかもしれませんが、説明責任を果たすとか、根拠を示すという点で大きな役割を果たしていると思います。ほとんどの場合において後者の方が優先度が高いと思います。